アンティバース、アウターリム

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Endgame Study 16: 少年は高みを目指す『スパイダーマン:ホームカミング』

 Endgame Study 16

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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スパイダーマン:ホームカミング』

 

 

いやはや、涙が出てくるレベルにひどいポスターだ。

炎に包まれるトニーが何度見てもじわじわ来る。

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日本版ポスター(というかインターナショナル版だが)はめちゃんこカッコよいのにどうしてこうなった。

 

満を持してMCUに電撃参戦を果たしたスパイダーマン。その単独作品となる今作は「MCU時代のスパイダーマン」をしっかりやっているなという印象だ。アベンジャーズに憧れ、アイアンマンにアピールをする高校生のピーター。早々に友人に正体がバレるなど、シークレットアイデンテティとの格闘を切り離すところは実にMCUらしい。

 

アベンジャーズ』や『エイジ・オブ・ウルトロン』において、ヒーローの名声は高さによって表現されていると述べたが、『ホームカミング』はこの高さのメタファー……もとより空間を活かした比喩的な演出が監督のジョン・ワッツはすこぶる上手い。

 

兵器の密売現場へと向かうスパイダーマンと最初のヴァルチャーとの邂逅、ワシントンのタワーの爆発とその救助、アベンジャーズタワーの荷物を積んだ飛行機での最終決戦でのそれぞれの高度がピーターのヒーローとしての高みを表現している。

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ここで面白いのが、密売の現場へ飛ぶように向かうピーターのウェブアクションは家屋に突っ込んだり木にぶつかったりとまるで冴えないのだが(これは周囲が住宅地であることに起因する)、ヴァルチャーに捕まることによって画面における彼の高度が急上昇することだ。ヒーローがヒーローたる為にはヴィランの存在が不可欠であることを示すようだ。

 

そしてジョン・ワッツの空間演出はピーターの青春とヒーロー活動のはざまの葛藤にも抜群に効いている。ここで用いられるのが扉と壁というモチーフで、車のドアを開けるトニー、扉を開けるとトゥームスが実はリズの父親であることがわかることなど扉に関しては父性との戦いに印象的に用いられる。

 

壁に関しては、リズのパーティやホームカミングパーティの会場で効果的に使われる。

青春に酔いしれる同級生と、ヒーローとしての責任感を強く感じるピーターの境界を隔てる。

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ピーターは何度もこの壁という境界に悩む。この境を乗り越え、普通の生活に戻るべきなのか、大いなる責任を全うすべきかどうか。

プロムで彼は一度この境界を乗り越え、普通の青春に戻ろうとする。が、リズに謝罪し、再び地獄への道に走る。『ホームカミング』は境界の話でもある。

 

また、話が前後するが、今作ではアベンジャーズタワーが象徴として高くそびえる。

MCUファンの間で『アイアンマン2』のエキスポ会場で暴走するハマー・ドローンからアイアンマンに助けられたお面の少年がピーターだったと唱えられたファンセオリーがあり、これを気に入ったトム・ホランドケヴィン・ファイギに「これって正史に出来ないかな!?」とかけあったという。このセオリーが本当に正史と見なされたかどうかはさておき*1、トムホがこのセオリーを踏まえて演技したのであれば興味深いし、アイアンマンへ傾倒する今作のスパイダーマン像にも納得がいく。また、MCUのピーターは数年前にNY決戦を彼が住んでいるのはクイーンズとはいえ経験しているはずなので、そこからヒーローとアベンジャーズへの憧憬に繋がっているかもしれない。

 

MCU時代のスパイダーマンは、明るく、楽しく、けれど曇るところは曇り、けれども力強く“地に足着いて”立つ少年となった。今作は大人との戦いでもある(トニーやトゥームス、ハッピーはもちろんのこと教育ビデオのキャプテン・アメリカすら模範的大人としてピーターの前に立ちはだかる)。

 

そしてこの後、スパイダーマンは更なる高み……というより宇宙に飛び立つこととなる。

 

 

*1:Titan社から出版されているガイドブック'Marvel Studios: The First 10 Years'の『アイアンマン2イースター・エッグの項にはこのセオリーについての記述がある。『マーベル・シネマティック・ユニバース 10th anniversary』というタイトルで邦訳も発売中。公式だがこれをカノンとするかは少々疑わしいところも多々ある。