アンティバース、アウターリム

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Endgame Study 19:We don't trade lives.『アントマン&ワスプ』

Endgame Study 19 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アントマン&ワスプ

 

 

 

『インフィニティ・ウォー』の凄惨な戦いに疲弊しきった観客たちのもとに、彼らが帰ってきた。

アントマン』タイトルは決まってアベンジャーズの戦いのその後にやってくる。まるで清涼剤のような立ち位置で、公開順もちゃんと考えてシリーズを構築するその計画性に感心してしまう。

 

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』や『インフィニティ・ウォー』において、「戦いを終え、家に帰る」という命題がしきりに語られる。平和を手に入れた時、いつかその戦いを終え、愛する人と静かな時を過ごす。トニーはそれを目標としつつも、結局のところスーツが手放せない。

 

アントマン&ワスプ』でのスコットは、『シビル・ウォー』の結果逮捕されたが、脱獄後FBIと取引をし、2年を自宅での軟禁を過ごすことになった。

結果、ハンクとホープは追われる身となり、彼らの生活を破壊してしまうこととなる。

今作は『シビル・ウォー』の余波を描いたストーリーになっている。

スコットが軟禁処分終了2日前のドタバタが本筋だが、その際に何度も何度も家に戻る彼の行動によってMCUが最終的に目指しているヒーロー像を描いているのではないだろうか。

 

スコットはヒーロー活動と普通の生活の両立を試みる。

スコットは、FBIの監視の目を逃れては、ピム達に協力し、そしてFBIに無断に活動している事がバレれば、即座に自宅へ走り戻る。それは軟禁を終える為、キャシーの為だ。

今回、スコットは仕事関係の都合でルイスに隠匿したラボのありかを教えてしまう軽率な行動を取ってしまうが、何より彼は自らの“生活”、そして周囲の大切な人の“生活”を案じていることがここからわかる。

そもそも彼は『シビル・ウォー』での独断行動でピム父子の生活を奪ってしまった。スコットはそれに対して深く後悔し、彼らの計画を手助けする。そうしてジャネットを取り戻すことによって、スコットはピム一家の生活を取り戻そうとする。

 

「We don't trade lives.」とは『インフィニティ・ウォー』でのキャップの弁だが、『アントマン&ワスプ』に来て、livesに「生命」だけでなく「生活」の意味も付与されたように見える。

 

また、元来の意味においても『インフィニティ・ウォー』のセリフと一貫している。

不幸な事故により身についた特異体質に生死を脅かされるゴーストは、ジャネットの力を吸収しようとする。その量子の力を吸収されるとジャネットは死亡してしまう。

しかし、最終的には自分の命の為に死なせようとしたジャネットによって、ゴーストは一命を取り留める。

『インフィニティ・ウォー』の「We don't trade lives.」は自ら進んで犠牲になろうとしたヴィジョンに対するスティーブのセリフだった。命を差し出すことによって、他の命を救おうとはしない、というサノスのスタンスへのNOでもあった。このトロッコ問題的命題は『エイジ・オブ・ウルトロン』のソコヴィアに対してもトニーとスティーブの間で交わされる。今作においては、生きているかもわからないジャネットと生きているゴーストにそれが適応されるだろう。

 

「We don't trade lives.」という現在のMCUが掲げる命題。

今回、その命題を描きつつ、更に新たな意味を付与したのは、今まで父親を殺して来たMCUの中で唯一無二の父親ヒーローであったスコットだけが成せることだった。

 

日常への帰還、ヒーローと日常の両立。ヒーローにとっては常につきまとう問題だが、庶民派ヒーローであるアントマンはその解を提示する。終盤のなんてことはないルイスやピム夫妻の日常風景は、悪人の不在であるこの映画においてアントマンの勝利を意味する。

 

そして、最も後味の悪い結末を迎えるわけだが……。

彼はどのように最後の戦いに絡むのか。サノスへの怒りをしかと噛みしめる幕引きである。