アンティバース、アウターリム

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Endgame Study 18: 世界を変える『ブラックパンサー』

Endgame Study 18

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ブラックパンサー

 

 

アベンジャーズ』が特大ヒットを記録した2012年、『ウィンター・ソルジャー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の2作が公開された2014年と、これらはMCUの中でも特筆すべき年に数えられるが、それでも2018年は最も躍進(と、喪失)を遂げた年だろう。

 

なかでも、この『ブラックパンサー』はご存知の通り、MCUどころか、アメコミ映画、ハリウッド映画史においても強い影響を残した。

 

ブラックパンサー』はおそらくMCUで最もポリティカルな主題を取り扱った作品だ。だが、その為にマーベルスタジオズはライアン・クーグラーを連れてきたのではないかと思う。 

 

で、何にしても今作はヴィランがいい。エリック・キルモンガー。クーグラーの盟友であるマイケル・B・ジョーダンが演じる彼は、MCUの抱えていたヴィランの問題を乗り越え、シリーズでも最高の悪役に君臨した。

そのセクシーで武骨のある見た目はもちろん(ロンドンでの服装があまりにもカッコ良すぎる)、抱えたバックボーン、散り様、全てのキャラが立っていた。

キルモンガーの作戦はすべてワカンダの伝統に乗っ取っているというのも良い。ヴィランは時に卑怯な手を使うが、彼は王位継承権を持ち、正当に儀式のもとでティ・チャラより王座を奪い取る。その上で彼はワカンダの鎖国の伝統を消し去り、虐げられてきた同胞を圧倒的な武力で解放しようとする。

キルモンガーの動機は悲しく、そして残酷ながら観客に共感を誘惑する。

彼は、ティ・チャラの過ちだけでなく、世界が苦しみに包まれようとも自国の安寧の為に手を差し伸べることをしなかったワカンダそのものが生み出した悲しい怪物だった。

 

だが、ティ・チャカたちはキルモンガーをそれでも止めようとする。

キルモンガーの真相を知ったティ・チャラは、祖先の霊にあなた達は間違っていた、と叫ぶ。彼が止めるのはキルモンガーだけでなく、ワカンダの排他的だった歴史そのものになる。キルモンガーはワカンダを何もしてこなかった、と責め立てる。ワカンダは偉大な力を持ちながらその国力が露見するのを恐れ、影で自分たちのみ繁栄してきた。大いなる力には大いなる責任が伴うことから避けてきたのだ。

 そして伝統を重んじる王家であるティ・チャラの思想に、キルモンガーの思想が少なからず影響を与えることとなる。完全無欠であるかのように思われるヒーローが、悪役である彼との戦いを通じ、その行動の意味を知り、成長するのだ。

 

だがしかし、ティ・チャラは今までのワカンダとも、キルモンガーの帝国主義とも違い、自国の技術や資源を公開し、積極的な協力をすると国連にて世界中に誓う。ここでかなり明確なトランプ政権への批判が挿入されるのがハッとさせられる。『ブラックパンサー』は政治的すぎるきらいもあるが、今ここでやるべき事をしっかりとこなしている点が素晴らしいと思うし、それが社会現象とまでなったゆえんであるように思う。また、こういったカルチュラルな問題を取り扱わねば、ライアン・クーグラーにわざわざ指揮を任せる必要もなかっただろう。

 

そしてこの国連でのティ・チャラの演説がこれまた感動的で、どこか説教臭いところもあるかもしれないが、この部分こそ『ブラックパンサー』の成し遂げたことだと思う。

現実への理想をフィクションで高らかに宣言し、リアルへの作用を試みる。実に青臭い理想だが、この志が何よりも尊い

フィクションである『ブラックパンサー』は、現実世界を変えようとしたのだ。

 

次回は『アントマン&ワスプ』の予定です。