アンティバース、アウターリム

好きな作品や好きなスタジオについて書けたらいいなと思ってます

Endgame Study 01: AC/DC、スーパーカー、パワードスーツ、『アイアンマン』

Endgame Study 01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 『アイアンマン』

 

 

 

 

 

 

というわけで、今日から始めますマーベル・スタジオズ作品一挙総復習企画。

 

今日から……つまり4/1からおよそ1日ごとに1作の感想を更新していく腹積もりなのだが、今この文章を書いているのは3/28。そして再鑑賞が完了しているのはこの『アイアンマン』から『インクレディブル・ハルク』『アイアンマン2』の3本だけ。 1本見て1文書いて……というフローならなんとかこなせなくもないだろうが、当方初めてのブログ。そして去年『インフィニティ・ウォー』に合わせてTwitter上でそれまでの18本にまつわる感想や知られざる小ネタなどを私的にまとめたツイートを投下するという企画を個人的に催したのだが、『ファースト・アベンジャー』と『アベンジャーズ』の言語化に手間取ったり、私生活でちょっとあったりで、結局『マイティ・ソー』で失踪してしまったという前科もある。

 

twitter.com

 (当時のツイートをまとめたモーメントはコチラ。楽しみにしてくださっていた方いたらゴメンナサイ)

 

 

4/26、全てのミッションを終え無事に果たして間に合うのか?

ハラハラドキドキしながら見届けていただけると幸いだ。

 

 

 

世界は、Buildされる必要があった

 

『シビル・ウォー』から見せた殉教者としての顔がもはやおなじみになった感のあるトニーだが、今作を観ると最初のころはなかなかのろくでなしだった事に気付いてびっくりする。これも新作が公開される度にキャラへ受ける印象がそのストーリー上で公開された情報とともに更新されていくMCUの特色のひとつなのだが、ここで描かれる初期のトニーはスーパーカー、豪邸、酒癖、女遊びと、身勝手な大富豪のステロタイプを見事に踏襲している(誰しもが憧れるリッチな暮らしが覗けるのが「アイアンマン」シリーズの見所のひとつでもあることは否定しない)。

 

 

そんな憧れの対象として最も高い位置に君臨するのがやはりパワードスーツだ。

何度見てもマーク3の装着シーンは惚れ惚れして仕方がない。テン・リングスへの怒り、金のためならなんとでも手を組むオバディアへの怒り、そして今までの自分への怒りが発露し、正義を装着する。ラミン・ジャヴァディによる音楽が感情を盛り上げ、トニーをコアとし無敵の“アイアンマン”が組み立てられていく。『アベンジャーズ』『ラグナロク』などで見られる変身へのフェティッシュなまでのこだわりはすでにあった。

マーク2の装着は3のそれとは少し文脈が違い、作ったものをとにかく試してみたいというトニーのエンジニアとしての側面が強く見られる。「たまには歩くより走れ」は今作きっての名セリフだと僕は思う。

 

マーク1を装着するにはインセンの手助けが必要というのがまたいい。「アイアンマン」の誕生には彼が電磁石でトニーの命を守らねばならなかったし、彼の決死の行動と今際の際に発した「その命を無駄にするな」という呪いが必要だった。

 

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マーク1。実際に撮影用にスーツが作られた。ファヴローはMCUのなかでVFXが一番上手いと思う

 

また、インセンと家族の話になった時の、トニーは何も持たざるものであるという指摘は『インフィニティ・ウォー』での冒頭の夢についてのトニーの発言や、『エイジ・オブ・ウルトロン』等で度々触れられる“家”への言及を経るといささか示唆的だ。インフィニティ・サーガは孤独な男が家庭を築くまでの道のりなのかもしれない。

 

家族というと、「アイアンマン」としての初出動、中東でのマーク3の初めての戦闘はテン・リングスに略奪される村の現地の家族を守るものだった。略奪と抑圧への抵抗こそがMCUにおけるヒロイズムであり、その被害を受ける市民の生活を守ることからこのヒーロー映画のシリーズは始まったとも言えなくない。

 

また、力を得るのではなく、創る、というのもアイアンマン(トニー・スターク)の特色だ。そもそも彼の行動は無自覚にも悪にも力を貸していたことへの贖罪から来ているが、創り上げたスーツは彼のその贖罪の結晶であり、スーツを着ることによって得られるスーパーパワーはまさに彼の正義の信念の証だ。

いささか強引だが『アイアンマン』シリーズのコアたるこの創る行為はなんだか自分たちで映画を作ると志したマーベル・スタジオズとケヴィン・ファイギの信念ともダブって仕方がない(箱推しなので・・・)。

 

いや~~~~しかし本当にこの映画はよくできている。アメコミ映画どころかハリウッドのブロックバスターがインフレにインフレを重ねている今となってはゆったりとした流れのように思えるが、クールなグラフィックスで繰り広げられるエンドクレジットやその後に流されるいわゆるポストクレジット映像は、今日のそれの源流であることは間違いない。

 

「わたしがアイアンマンだ」でのシメ、けたたましく鳴り響くブラック・サバス、現れる謎の男……ヒーローにはつきもののシークレット・アイデンティティの否定から始めようという決意はまさしく斬新なものであったし、ポストクレジットのそれは更なる世界の広がりを期待させる。

『アイアンマン』が成功した理由はこの2点に集約されるのではないだろうか、と思わず雑語りしてしまいそうになるほどにこの映画はラストに並々ならぬ力を入れている。実際ほかの作品を、特に『インフィニティ・ウォー』でのあの衝撃的なラストを観ると、マーベル・スタジオズが読後感に力を殊更に入れているのは間違いないだろう。

 

今改めてこの壮大な旅路の第一歩を振り返ると、なんとクラシックな足跡なのだろうと愛おしく思える。ナノテクによって瞬時の装着を可能にし、また流動的で無限の装備を形作るナンバリング50のスーツの初代モデルは、中東のテロリストのねぐらの中で生み出された。

彼の行動は一種の罪悪感から始まった。それはいつしかアイデンティティとなり、強迫観念へと変わる。

 そして今、彼は宇宙をあてもなく彷徨っている。過去最大の罪悪感を抱いて……。

 

 

 

 

 

 

 余談 One Shot: S.H.I.E.L.Dの呼称について

 

 重度のMCUファンのあいだで度々話題に上がるテーマがいくつかある。「8年後」とか「私がやるとか言いつつ3年待ったサノス」とか「スタークエキスポに来ていたピーター」とか、大きなコンティニュティを売りにしてきたMCUならではの設定マニアを唸らせたり困らせたりする色んなネタだ(特に時系列関係のネタが多い)。

連続性を重んじてきた……と言いつつこれらはスタジオの一球入魂的なスタイルによって生まれた設定上の齟齬である場合が多いのだが、ここではこの『アイアンマン』から『キャプテン・マーベル』、果ては『エージェント・オブ・シールド』まで遡及する問題、「S.H.I.E.L.D.の略称決まってなかったんじゃないの問題」について、MCU作品上で名称に言及されたいくつかのケースを取り上げつつ個人の所感をまとめていきたい。

 

まず、S.H.I.E.L.D.とはMCUにおいておなじみのいわゆる諜報機関である。

正式名称は

Strategic Homeland Intervention, Enforcement, and Logistics Division.(戦略国土調停補強配備局)

このながーーーーーーいお名前を略してS.H.I.E.L.D.と呼ぶわけだ。

 

『エージェント・オブ・シールド』においては、シーズン1エピソード1でマリア・ヒルにこの正式名称をどう思うと問われたグラント・ウォードが「誰かが頭文字をSHIELDにしたかったようだ」と言及している。

創立メンバーにはペギー・カーターやハワード・スタークといった組織の前身であるSSR時代にキャプテン・アメリカと共に戦った盟友が名を連ね、彼のトレードマークである盾(シールド)からも由来していると思われる。

 

ところが、だ。

 

最初期作品である『アイアンマン』では、S.H.I.E.L.D.のエージェント、フィル・コールソンはわざわざあのながーーーーーい正式名称でペッパーに自己紹介してからこんなことを言う。

「略称を考案中」

そして物語の最後、トニーが自らがアイアンマンだとカミングアウトする会見の前に略称が決まって、それはS.H.I.E.L.D.だ、と告げる。

 

だがしかし、

 

第二次世界大戦後のペギーを描く短編(マーベル・ワンショット)『エージェント・カーター』では、ハワードがはっきりと新たに設立する組織の名を「S.H.I.E.L.D.」と発言している。

また、『アイアンマン』以前の1990年代を舞台とする『キャプテン・マーベル』でも、S.H.I.E.L.D.はS.H.I.E.L.D.である

 

 

一体どういうことなのだろうか?

 

 

これについては、コールソンがトニーやペッパーを長い名前で述べることで煙に巻いただけ、という説がしっくり来る。おそらく諜報機関ならではの手法なのだろう。

また、メタ的にも実はこの説は保証されていて、これらの正式名称は本当はMCUオリジナルであり、コミック(Earth-616)においては厳密には違っていて、Strategic Hazard Intervention Espionage Logistics Directorateという名前なのだ。つまり、最後に自分がS.H.I.E.L.D.であると明かすことで、ペッパーたちだけでなく、観客のコミックファンをニヤリとさせる仕掛けだったのである。

 

 

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だが、『アイアンマン』の出来事をフューリー視点で描くコミック『Iron Man: Security Measures』にはこんな一幕もあるので安心できない。もっともこれは正史(カノン)扱いはされていないあくまでもインスパイア・コミックなのだが……。『アイ・アム・アイアンマン』(小学館集英社プロダクション)に収録されている。



 

 

 

 

というわけで、第一作『アイアンマン』については以上です。

なんだか余談の方が長い気がする…。バランスが大事ってサノスも言ってたのに。

全部合わせて2000文字ぐらいいけばいいなーと思っていたらこの時点で4200文字。書くのは慣れないけどやってればノリノリになってきて楽しくて良いんだけども、完走するためにももうちょっとペース配分と構成考え直してタイトにおさめます。はい。