アンティバース、アウターリム

好きな作品や好きなスタジオについて書けたらいいなと思ってます

Endgame Study 09: 紛れもないマスターピース『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』

Endgame Study 09

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:SICRIM:20190405013004j:plain

 

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』

 

 

やばい、マジで書けることない。

『ウィンター・ソルジャー』はあまりにも傑作すぎるので、何を書けばいいのか逆にわからない。現にこの記事を書いてるとすげー詰まる。その為+私生活がちょっと忙しくて本来更新すべきなのに放置してしまいました。本当にスミマセン。

 

 

アベンジャーズ』になった後の彼らの姿を描くのがフェーズ2なのだが、『ファースト・アベンジャー』以後のスティーブに起こった変化は誰よりも大きい。

70年の不在から目を覚まし、友人たちの遺した組織で兵士として身を捧げるスティーブは、自らの慣れしたんだ“過去”と複雑化する“現在”に翻弄される。

今作は、様々な理由でその現代という現実になかなか順応できない人々にフォーカスが当てられる。

PTSDとなった帰還兵たち、そしてスティーブその人である。

 

ティーブは文化も、政治も、S.H.I.E.L.D.のやり方も、馴染めない。

70年の間の主要な映画や音楽を聞いてまわってはメモをしているが、部屋にあるステレオからは、教えられた現代のポップスやジャズではなく、クラシックな歌謡曲が流れている。人にモノをオススメされてもなかなか触れないオタクと同じである。(僕のことです)

 

インサイト計画は世界が変わったことを彼に決定的に悟らせる。

危険分子を事前に見つけ、自動的に排除するこのシステムに、彼は「これは自由じゃない 恐怖だろ」というスティーブが、このキャラクターのスタンスとして圧倒的な正しさをもたらしてくれる。

計画を知ったあと、スミソニアンで自分の企画展を見に行くのもまた、何かの確認をしているようで泣ける。登場人物の説明(主にバッキ―についてだが)だけでなく、彼が昔を惜しみ、今のギャップに苦しむことを示唆するスティーブの感情も説明する名シーンだ。ルッソは説明、今後の要素の示唆、そしてキャラの感情の動くさまなどの複数の要素を1つのシーンに込めるような演出が非常に巧みで、観れば観るほどこうだったのか!こう動かしているのか!と思わず唸ってしまう。

そしてペギーの見舞いだ。これが本当につらい。『エンドゲーム』の本予告でもここのペギーのセリフは引用されたが…。ペギーもハワードも薄々ヒドラの浸食に感づいていたのでは?という気もしなくもない

そして、インサイト計画に反発するスティーブは、グループセラピーを主宰するサムのもとを訪れ、引退を示唆する。

『ウィンター・ソルジャー』でも『シビル・ウォー』でも、S.H.I.E.L.D.や国連の決定や計画に対し、彼は一度スーツを脱ぐことを考える。しかし、それでも彼は自分の正義を貫こうと戦う。彼のアイデンテティを確立する為の戦いの敵は、複雑でグレーな色となった現代そのものでもある。

 

そして、その現代に、断ったはずの“過去”が立ちはだかる。

1つはヒドラである。過去の戦いで打倒したはずの存在が現代を蝕んでいたのは、スティーブにとっても、そしてS.H.I.E.L.D.という組織を信じていたナターシャにとってもあまりにもショックだった。

ゾラがこんなにヒドラ信奉してたのかと初見時は『ファースト・アベンジャー』のいやいや協力してたっぽい彼の姿を知っていたので違和感があったが、『CAFA』が実は怪しまれたくないヒドラもちょっと関与してた博物館用の実録映画だったと思うとちょっとしっくり来るw

 

2つ目がバッキ―である。アベンジャーに立ちはだかるヒドラターミネーターと化した彼は、スティーブにとっての取り戻すべき“過去”でもある。ダムにおいて、明確な回想が挿入されるのがどうにもほろ苦い。父母を亡くしたスティーブに、部屋の鍵を見つけ渡すバッキー。

最後のその時まで一緒だ、なんて親友でも普通さっと言えるか!?!!?イケメンすぎるやろ!!!このTil' the end of the lineの回想とスティーブによる反復がこの映画の美しさを際立たせる。

 

ティーブはスミソニアンの化石を再び身に纏うことによって、このグレーで、薄暗い現代でも再びキャプテン・アメリカとして立ち上がる。病に侵された“現代”を断つだけでなく、“過去”に袖を通し見失いつつあった自らの正義に立ち戻る。

このゴールデン・エイジのスーツの登場に当時はもうメチャクチャ震えて、おおぉ…と思わず声を漏らしたものだった。オタクは最終決戦に旧式で臨む展開に弱い。

 

そして、このスーツの登場には更なるロジックが隠されている。マーベルスタジオズのアート部門の長として長年キャップのスーツをデザインしてきたライアン・マイナーディング氏のインタビューでそれが語られている。

www.cbr.com

詳しくは『CAFA』の記事でも引用した光岡ミツ子氏のツイートを参照してほしい。

https://twitter.com/mitsumitz/status/1109443625962737667

 

ティーブがキャプテン・アメリカとして、スティーブ・ロジャースとしての自己を見つめなおすきっかけとしてのスーツだっただけでなく、バッキ―が彼を思い出すきっかけにもなったのだ。アツい……。

  

『ウィンター・ソルジャー』は当時のMCUにおいてはまさにゲームチェンジャーだった。類を見ないほどソリッドでシリアスな雰囲気、MCUベストバウトとも言うべき高速道路での戦いなどの洗練されたアクションの数々、ツイストにツイストを重ね陰謀モノからヒーローの活劇として見事に帰結するその鮮やかな着地。紛れもなく最高傑作のひとつである。

 

なかでも『ウィンター・ソルジャー』の、S.H.I.E.L.D.がヒドラに乗っ取られていたというツイストは、実に見事なサプライズだった。

『アイアンマン』から神々の戦いである『マイティ・ソー』、そして『アベンジャーズ』とその以後も影を落としていたこの諜報機関というユニバース全体を繋ぐ楔は、この時点まではS.H.I.E.L.D.だった。今作は、その楔からユニバースを更に拡大させるために解放しようという試みがなされたのではないかと今にして思う。今作の直後には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が公開され、地球を超えサーガ全体がインフィニティ・ストーンが軸となっていく。

 

ルッソ兄弟は自身のMCU作品における仕事を脱構築と形容している。

This is the fourth directing gig for you in the MCU. What has been the mental shift for you from when you started until now?

Coming in, my brother and I were disruptors. We like to deconstruct things; it is our general disposition. And it’s interesting because we came in at a point where we could start deconstructing the MCU. We deconstructed Captain America from his first movie, went in a completely different direction. We deconstructed the Avengers in Civil War by tearing them apart. And we deconstructed the whole universe by killing half of it in Infinity War. So I think our disposition lined up with the journey that was happening at the time and we were able to take our thematics that are important to us and infuse them in the four movies that were part of this journey.

Again, you’ll see with Endgame that they’re all interconnected in a way.

(拙訳)

インタビュアー:これはあなた(ジョー・ルッソ)の四度目のMCUでの監督作です。初めての頃と今では何か心境の変化はありますか?

 

ジョー:私たち兄弟は破壊者としてMCUに加入しました。我々は物事を脱構築するのが好きですし、それが持ち味(性質)だったのです。加入してすぐにMCU脱構築を行ったのも面白いですよね。我々はキャプテン・アメリカを一作目(『CAFA』)から全く違う方向に導くことで脱構築しました。『シビル・ウォー』ではアベンジャーズを分裂させ脱構築しました。そして『インフィニティ・ウォー』では、全宇宙から半分の生命を消し去り脱構築を行いました。

 我々のこの(脱構築をしていく)性質はいつ、何が起こるのか、というこの旅のような長い物語に合致していると思います。よって我々は、この長き旅の一部分であるこの4作品に、重要な主題を盛り込むことが出来たのです。

そして、『エンドゲーム』ではそれら全てが関連しあうでしょうね。

in.mashable.com

 

なんだか脱構築ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

このインタビューは最近のものだが、彼らは度々自分たちの仕事はそれであるとインタビュー等で答えている。

これには彼らのストーリーテラーとしての才が垣間見らることができる。そもそもドラマでキャリアを積んできた彼らにとって、誰かが語ってきたストーリーを引き継ぎ、そしてまた誰かにバトンを渡すというのは今までやってきたことだった。されど、これほどのビッグバジェットでの仕事は初めてであったし、そして世界観そのものを揺るがす展開のある重要なタイトルを経験の少ない彼らに任せ、そして見事に成功させたファイギの手腕とその目は正直異常。

 

『ウィンター・ソルジャー』のこのツイストも、『シビル・ウォー』の決壊も、『インフィニティ・ウォー』の大敗も、彼らはユニバースの大きな要素を絶えず脱構築していく。『エンドゲーム』では一体何を破壊するのか?そして何を再構築するのか?非常に楽しみだ。

 

 この映画はスティーブが嘘と隠し事を嫌うことがある種の行動原理になっている。

ただ、もし、彼もまた何か隠し事を持つとすれば……?

この作品の最高のシメであるエンディングの、「いつ始める?」から勇壮に流れるTaking a Standは、また違った意味になる。そこまで狙っていたならば、やはりこの映画は、MCUは恐ろしいと言わざるを得ない。